歯科技工士の危機:ダンピングと後継者不足の実態

歯科技工士は、入れ歯や歯の被せ物・詰め物を作成・加工・修理する専門職ですが、彼らが直面する問題が深刻化しています。この記事では、歯科技工士の現状、業界が抱える課題、そしてその解決策について考察します。

ダンピングと価格競争の問題

ダンピングの影響

歯科技工士が制作する被せ物や詰め物、入れ歯は、医療機器として認められず、「雑品」として扱われています。このため、自由競争の名のもとに価格競争が激化し、ダンピング(不当廉売)が横行しています。この構造的な問題は、歯科技工士の収入を圧迫し、業界全体の質を低下させています。

具体例とその影響

関東地方でラボを経営するA氏によれば、5000円の被せ物の内訳は、材料費、歯科技工士の技工料、歯科医の技術料から成り立っていますが、実際には歯科医が保険請求を行うため、価格競争が激しくなります。その結果、安価で粗悪な製品が市場に出回り、患者にとっても良くない結果を招いています。

後継者不足と高齢化

労働条件の悪さ

歯科技工所の95%は従業員5人未満の零細企業であり、その多くが1〜2人で運営されています。さらに、高齢化が進んでおり、40歳以上が7割、60歳以上も2割近くを占めています。技工士学校の入学者も減少しており、業界全体で後継者不足が深刻化しています。

若い技工士の減少

技工士の労働条件が厳しいため、若い人材の確保が難しくなっています。特に入れ歯の製作は手間がかかる割に収益が低いため、若い技工士は効率の良いCAD/CAM技術に移行する傾向があります。このため、入れ歯を作れる技工士が減少し、患者が適切な治療を受けられなくなる「入れ歯難民」が増加しています。

政府の無責任な対応

アンケートの影響

厚労省が行う年1回のアンケートでは、技工料金を尋ねる質問が含まれています。このアンケート結果に基づいて保険点数が調整されるため、ダンピングが行われると市場全体の相場が下がります。この仕組みが理解されていないため、正直に低価格を記入する技工士もおり、結果的に業界全体の利益率が低下しています。

改善の必要性

現在の状況では、歯科技工士の労働条件や収入が改善される見込みは少なく、業界の先細りが続く可能性があります。技工士の仕事を続けるためには、価格競争に左右されない仕組みや、労働条件の改善が必要です。また、若い世代の技工士を育成し、業界全体の質を向上させるための支援が求められます。

まとめ

歯科技工士は、患者の口の中にフィットする高品質な医療機器を提供するために重要な役割を担っています。しかし、現在の構造的な問題やダンピング、後継者不足、高齢化など、多くの課題に直面しています。政府や業界全体での対策が急務であり、患者が安心して治療を受けられる環境を整えるための努力が求められます。