歯科におけるアナフィラキシー

アナフィラキシーは、命に関わる可能性がある急性のアレルギー反応です。日本では年間50〜80名がアナフィラキシーで亡くなっており、歯科の臨床現場でも注意が必要です。今回は、歯科におけるアナフィラキシーの症状や対応方法について解説します。

歯科におけるアナフィラキシーの原因

歯科治療でアナフィラキシーを引き起こす主な原因は、ラテックスや薬剤です。ラテックスアレルギーの患者は、クリ、バナナ、アボカド、キウイフルーツなどを摂取した際にアナフィラキシー反応を起こすことがあります。問診時にこれらの食品に対する反応を確認することが重要です。

アナフィラキシーの症状

アナフィラキシーの症状は多岐にわたります。以下は主な症状です:

  • 口腔内: 口唇・舌の腫脹
  • 顔面周囲: 顔面蒼白・浮腫、粘膜の膨張・流涙、鼻閉・鼻水
  • 呼吸: 嗄声、喘鳴、気管支けいれん、チアノーゼ、呼吸困難
  • 全身: 血圧低下、頻脈あるいは徐脈、発汗、悪心・嘔吐、昏迷・意識喪失、けいれん、心停止
  • 皮膚・粘膜: 紅斑、発赤、かゆみ、じんましん

患者自身が感じる自覚症状としては、死んでいくような不安感、金属臭のような味、めまい、発汗、目のかゆみ、腹痛・下痢などがあります。

アナフィラキシー発生時の対応

アナフィラキシーが発生した場合、迅速な対応が求められます。一般的な歯科臨床(外来)での対応方法と手術室での対応方法に分けて説明します。

外来での対応

  1. アドレナリンの筋注: アナフィラキシーと診断されたら即座にアドレナリンを外側大腿広筋に筋注します。成人は0.3mg、小児(体重15kg以上)は0.15mgを投与します。
  2. エピペン®の使用: エピペン®を使用する場合、安全キャップを外し、大腿をしっかり押さえて固定し、オレンジ色の部分を注射部位に対して垂直に当て、「カチッ」と音がするまで強く押し付けます。

手術室での対応

  1. アドレナリンの静注: 麻酔時にはすでに静脈路が確保されているため、アドレナリンの静注を行います。20倍アドレナリン溶液を1ml(50μg)緩徐に静脈内投与し、効果が得られなければさらに1ml投与します。

高リスク患者への対応

多数の全身疾患を持つ患者や心疾患を有する高齢者でも、アナフィラキシー時にはアドレナリン投与が推奨されます。アナフィラキシーによるリスクの方がはるかに高いため、迅速なアドレナリン投与が重要です。

アナフィラキシーは迅速な対応が求められる緊急事態です。適切な知識と準備を持って、患者の命を守りましょう。

エピペン®について詳しく

エピペン®は、アナフィラキシーの緊急時に使用されるアドレナリン自己注射薬です。アナフィラキシーは、急速に進行する重篤なアレルギー反応で、迅速な対応が必要です。エピペン®は、アナフィラキシーの症状を一時的に緩和し、医療機関での治療を受けるまでの間、患者の命を守るために使用されます。

エピペン®の特徴

  • 成分: アドレナリン(エピネフリン)が含まれています。
  • 形状: 注射針一体型の自己注射用製剤で、使いやすいデザインです。
  • 使用方法: 太ももの前外側に注射します。緊急時には衣服の上からでも注射が可能です。

使用方法

  1. 安全キャップを外す: エピペン®の青い安全キャップを外します。
  2. 注射部位に当てる: オレンジ色の部分を太ももの前外側に垂直に当てます。
  3. 注射: 「カチッ」と音がするまで強く押し付け、そのまま数秒間待ちます。
  4. 確認: オレンジ色の部分が伸びたことを確認します。

使用タイミング

  • アナフィラキシーの初期症状が現れたとき
  • 過去にアナフィラキシーを発症した原因物質に再度暴露されたとき

注意点

  • 応急処置: エピペン®はあくまで応急処置用であり、使用後は速やかに医療機関を受診する必要があります。
  • 携帯: アナフィラキシーのリスクがある人は常にエピペン®を携帯することが推奨されます。

エピペン®は、アナフィラキシーの緊急時に非常に重要な役割を果たします。正しい使用方法を理解し、いざというときに備えておくことが大切です。

エピペン®の副作用

エピペン®にはいくつかの副作用がありますが、これらは通常軽度で一時的なものです。以下に主な副作用をまとめます。

主な副作用

  • 動悸: 心拍数が増加し、胸がドキドキする感じがします。
  • めまい: 立ちくらみやふらつきを感じることがあります。
  • 頭痛: 軽度から中程度の頭痛が発生することがあります。
  • 不安: 一時的に不安感が増すことがあります。
  • 吐き気・嘔吐: 一部の人は吐き気や嘔吐を経験することがあります。
  • 発汗: 異常な発汗が見られることがあります。

まれに発生する重大な副作用

  • 肺水腫: 初期症状として異常な血圧上昇が見られることがあります。
  • 呼吸困難: 呼吸が困難になることがあります。
  • 心停止: 初期症状として頻脈、不整脈、動悸、胸の苦しさが現れることがあります。

エピペン®を使用した後に異常を感じた場合は、すぐに医療機関を受診することが重要です。エピペン®は命を救うための緊急処置薬ですが、使用後は必ず医師の診察を受けるようにしてください。

まとめ

アナフィラキシーは急性のアレルギー反応で、迅速な対応が求められます。歯科治療における主な原因はラテックスや薬剤で、問診時にこれらのアレルギー反応を確認することが重要です。症状は口唇や舌の腫脹、呼吸困難、血圧低下など多岐にわたります。

アナフィラキシーが発生した場合、外来ではアドレナリンの筋注やエピペン®の使用が推奨され、手術室ではアドレナリンの静注が行われます。高リスク患者でもアドレナリン投与が推奨され、迅速な対応が命を救う鍵となります。

適切な知識と準備を持って、アナフィラキシーに対処することが重要です。