大阪大学は7月16日、94,422人を対象とした大規模コホート研究で、臼歯の咬合支持と歯の喪失の関連性を調査した結果を発表しました。この研究は、大阪大学の豆野智昭助教と池邉一典教授、山本陵平教授らの研究グループによるもので、国際科学誌Journal of Dentistryに掲載されました。
臼歯の咬合支持の低下が歯の喪失リスクを高める?
歯の喪失は、歯周病やう蝕、喫煙などが原因とされています。歯を失うと、咀嚼機能や栄養状態、発語、外見、コミュニケーションに影響を与え、生活の質にも関わります。これまでの研究では、臼歯の咬合支持力の低下が歯の喪失を加速させることが示されており、残存歯に対する咬合負荷の増加や外傷が関与していると考えられています。
研究の目的と方法
今回の研究グループは、臼歯の咬合支持の低下が歯の喪失リスクを高め、その影響が前歯と臼歯で異なるという仮説を立て、高齢者における咬合支持状態と歯の喪失リスクとの関連性を明らかにすることを目的としました。研究は、大阪府後期高齢者医療広域連合が実施した歯科健診のデータを活用し、94,422人を対象に行われました。
研究結果
研究の結果、アイヒナー指数B4のグループが最も高い歯の喪失率を示し、特に前歯部でのリスクが高いことが明らかになりました。また、男性、歯周ポケットスコアが高いこと、プラーク蓄積量が多いこと、喫煙、肥満、毎年の歯科検診に参加していないこと、高齢であることが歯を失う危険因子であることが示されました。
研究はどのように実施されたのか
この研究は、大阪大学の研究グループが、大阪府後期高齢者医療広域連合と大阪府歯科医師会と協力して実施しました。以下のような方法で行われました。
- 対象者の選定: 2018年4月から2019年3月までに大阪府後期高齢者医療広域連合が実施した歯科健診のデータを使用し、94,422人の後期高齢者を対象としました。
- データ収集: 歯科健診の内容には、歯の本数、歯周ポケットの深さ、咬合状態などが含まれました。咬合状態はアイヒナー指数に基づいて分類されました。
- 追跡調査: 参加者は2022年3月までに1回以上のフォローアップ歯科検診を受け、そのデータを収集しました。
- データ分析: 歯の喪失リスクと咬合支持の関連性を調べるために、ロジスティック回帰モデルを使用してデータを解析しました。これにより、咬合支持の低下が歯の喪失リスクを高めることが確認されました。
この研究により、臼歯の咬合支持が歯の喪失リスクに与える影響が明らかになり、特に前歯部でのリスクが高いことが示されました。
他に研究結果からわかったこと
この研究から得られた他の重要な知見には、以下のようなものがあります:
- 歯の喪失リスクの要因: 歯の喪失リスクが高い要因として、男性であること、歯周ポケットスコアが高いこと、プラークの蓄積量が多いこと、喫煙、肥満、毎年の歯科検診に参加していないこと、高齢であることが挙げられました。
- アイヒナー指数と歯の喪失率: アイヒナー指数B4のグループが最も高い歯の喪失率を示し、特に前歯部でのリスクが高いことが明らかになりました。これは、臼歯の咬合支持がない場合、前歯にかかる負荷が増加するためと考えられます。
- 歯周ポケットの深さ: 歯周ポケットの深さが4〜5mmのグループが最も多く、次いで4mm以下のグループ、5mm以上のグループの順でした。歯周ポケットの深さは歯周病の進行度を示す指標であり、深いポケットは歯の喪失リスクを高める要因となります。
- 前歯と臼歯の比較: 前歯部ではアイヒナー指数B4のグループが最も高い喪失率を示し、臼歯部ではアイヒナー指数B3のグループが最も高い喪失率を示しました。これにより、前歯と臼歯で咬合支持の低下が異なる影響を与えることが確認されました。
これらの知見は、歯の喪失を予防するための重要な情報を提供し、咬合支持の回復を行う治療の必要性を示唆しています。
まとめ
今回の研究で、臼歯の咬合支持低下が歯の喪失リスクを高めることが示されました。この知見は、歯の喪失を予防する重要性を指導するだけでなく、咬合支持の回復を行う治療を促す根拠にもなるかもしれません。今後もさらなる研究が期待されます。