高齢者の健康維持は重要な課題であり、特にフレイル(虚弱)と呼ばれる状態は大きな関心事です。フレイルは、身体機能や認知機能の低下を伴い、生活の質を著しく低下させます。今回の研究では、糖尿病治療薬として知られるメトホルミンがフレイルの改善に寄与する可能性が示されました。
前糖尿病とフレイル発症の関係
前糖尿病の影響
前糖尿病は血糖値が正常範囲を超えるが糖尿病には至らない状態を指し、高齢者に多く見られます。この状態がフレイルのリスクを高めることが知られていますが、そのメカニズムについては明らかではありませんでした。
研究の概要
米・Albert Einstein College of Medicineとイタリア・University of Naples FedericoⅡの研究チームは、高血圧を有するプレフレイルの高齢者を対象に調査を行いました。前糖尿病状態の者は、1年後にフレイルを発症するリスクが有意に高いことが示されました。そして、メトホルミンの投与がフレイルの改善に効果的であることが分かりました【Hypertension(2024; 81: 1637-1643)】。
インスリン抵抗性と認知・身体機能障害の関係
インスリン抵抗性の指標
研究では、インスリン抵抗性の指標としてTyG指数(トリグリセライド値×空腹時血糖値/2)を用い、これと認知・身体機能障害との関連を解析しました。その結果、インスリン抵抗性が高いほど認知機能障害および身体機能障害が進行しやすいことが明らかになりました。
認知機能と身体機能の評価
具体的には、Montreal Cognitive Assessment(MoCA)スコアで評価した認知機能障害および5m歩行速度で評価した身体機能障害が、TyG指数と有意な相関を示しました。これにより、インスリン抵抗性がフレイルの進行に深く関与していることが示唆されました。
メトホルミンの効果
メトホルミン投与群と非投与群の比較
フレイルを発症した前糖尿病患者を対象に、メトホルミンを1日1回500mg投与する群と非投与群に分け、6カ月間追跡しました。結果、メトホルミン投与群では非フレイルの状態に改善した割合が有意に高かったことが確認されました。
メトホルミンの役割
メトホルミンは糖尿病治療薬として広く使われていますが、今回の研究でフレイル抑制にも効果があることが示唆されました。これにより、高齢者の健康管理における新たな治療法としての可能性が期待されます。
まとめ
今回の研究では、前糖尿病がフレイルのリスクを高める一方で、メトホルミンの投与がフレイルの改善に寄与することが示されました。メトホルミンは糖尿病治療薬としての役割を超え、高齢者のフレイル予防や改善に有効である可能性があります。今後の研究と臨床応用に期待が寄せられます。