韓国の医学部増員問題と日本の事例を考える

医療界における医師不足は、多くの国で深刻な問題となっています。特に、医学部の入学定員を増やすことは、将来の医療体制に大きな影響を与える重要な課題です。韓国と日本は、それぞれ異なるアプローチを取りながら、医学部増員問題に取り組んでいます。

韓国の医学部増員問題と医師の反発

韓国政府は医師不足への対策として、大学医学部の入学定員を拡大する計画を発表しました。しかし、多くの医師が反発し、異例の対応としてストライキではなく集団辞職を選択しています。

医師の反対理由

  1. 競争激化と収入減少の懸念:
    • 医師側は、医師数の増加により競争が激化し、収入が減少することを懸念しています。
    • 韓国は医師1人あたりの患者数が最も多い国の一つであり、政府は医学部の定員を増やしたい考えです。
  2. 医療制度の民営化と医師の待遇格差:
    • 韓国の医療制度は民間病院が主流であり、医師の待遇や報酬に大きな格差が生じています。
    • 特定分野への人材の偏りや、医療費の額、多数の医学生を受け入れる態勢の整備なども問題とされています。
  3. 医師の労働環境の過酷さ:
    • 専攻医の週平均労働時間は長時間で、休息時間も十分に取れないなど非常に過酷な状況です。
    • 医師の減少により、診療報酬の低い分野での医療が困難になっています。

世論と政府の対応

  • 韓国の世論は医学部の増員に肯定的であり、地方の医療人材不足や特定診療科の専門医が不足していることに国民が危機感を持っています。
  • 政府は医学部の定員増を推進しており、医師の増加に対する反発とのバランスを取る必要があります。

医師の集団辞職は極端な行為ですが、医師の労働環境改善と医療制度の見直しを真摯に考えるべきです。

日本の医学部増員事例

日本では医学部の入学定員を徐々に増やし、17年間で計1778人を増員した事例があります。以下に詳細を示します。

  1. 地域の医師不足解消(地域枠):
    • 医学部定員を増やす大きな理由の一つは、地域によって医師が不足している状況が認められることです。
    • 地域における医療体制確保のための「新医師確保総合対策」が出された2006年時点でも、すでに青森県や岩手県、秋田県を始め医師不足が特に深刻な10県で各10人増員されています。
    • 2010年以降は地域の医師確保を目的とした「地域枠」で奨学金を設け、地域医療を担う意思を持つ者を対象にして定員増の取り組みが行われています。
    • 現在、地域枠は79大学中71大学(90%)の大学で導入されており、2023年度の全国医学部における地域枠定員は、前年比プラス53人の961人です。
  2. 研究医養成のため:
    • 日本では基礎医学の分野で国際的な業績を上げてきたものの、現代では研究医が減少している傾向です。
    • 研究医不足は、基礎医学教員の不足や臨床研究・橋渡し研究の活力低下、創薬産業や医療器機産業への負の効果などさまざまな影響が懸念されています。
    • そこで、研究医枠を設け、研究医養成に力を入れる大学も増えています。
    • 学部・大学院教育を一貫して行うMD-PhDコースのような、研究医養成のための仕組みも取り入れられており、2020年時点で研究医枠のあるのは15大学で、2010~2019年の間に述べ増員数の3倍以上の延べ履修者を確保していることがわかりました。

これらの取り組みにより、地域の医療体制の改善と研究医の養成が進められています。

まとめ

韓国と日本の医学部増員問題は、医療界の未来に大きな影響を与えています。適切なバランスを保ちつつ、医師不足を解消し、質の高い医療を提供できる社会を築るために、政府や医療機関は慎重な対策を講じる必要があります。医学部増員の取り組みは、患者と医師のニーズを考慮した上で進められるべきです。